近年では副業を認める会社が増加傾向にあり、副業をはじめてみたいと考えている人も多いのではないでしょうか。
2021年3月にパーソナル総合研究所は、70歳未満の男女で経営層・人事で人事管理について把握している1,500人を対象に、副業に関する調査を行いました。
調査によると、自社の正社員の副業を容認している企業の割合は55%という結果になり、2018年に実施した前回の調査に比べると3.8ポイント上昇しています。
ところが、実際に副業をはじめるとなると開業届は必要なのか、面倒な手続きが待っているのではないかと不安に感じてしまいますよね。
今回は副業であっても開業届は必要なのか、開業届を提出するメリット・デメリット、書き方や提出方法についてまとめました。
副業は開業届が必要?必要なケースとは
開業届とは
「個人事業の開業・廃業等届出書(以下:開業届)」とは、個人で事業を始める際に税務署へ提出する書類のことです。
国税庁のホームページによると、新に事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき、または事業を廃止したときに提出します。
また、新たに事業所得、不動産所得または山林所得を生ずべき事業の開始等をした方が提出の対象となっており、開業から1ヶ月以内に提出しなくてはなりません。
必ずしも開業届を提出する必要はありませんが、確定申告を青色申告で行う場合は開業届と青色申告承認申請書の提出が必須です。
継続的な収入が見込める場合は開業届が必要
【開業届が必要な例】
- 賃貸物件を複数所有している
- フリーランスの仕事を継続的に行っている
- オンライン講師で講義を定期的に行っている
事業や投資によって継続的な収入が見込める場合は、開業届を提出する必要があります。
具体的な例としては、投資用に賃貸物件を複数所有しており、毎月一定額の不動産収入が見込めるケースです。
また、フリーランスで仕事を請け負っている場合、複数の生徒にオンラインで講義を行っている場合も該当するでしょう。
年間収入20万円以上から確定申告を行わなくてはならないため、1月1日~12月31日までの年間収入が20万円以上見込める人は開業届を提出してください。
一時的な利益を得る場合は開業届は不要
【開業届が不要な例】
- フリマアプリで不用品を売っている
- 趣味でハンドメイド商品をネット販売している
- ブログや動画で趣味程度に広告収入を得ている
継続的な収入は見込めずに一時的な利益を得る場合は、開業届を提出する必要はありません。
具体的な例としては、フリマアプリで不用品を売っていたり、ハンドメイド商品を趣味程度にネット販売しているケースです。
また、趣味の一環としてブログや動画で広告収入を得ているという人も、開業届の提出は不要です。
ただし、確定申告が必要とされる年間所得20万円以上の場合は、ハンドメイド作家やブロガーなどの仕事も開業届の提出が必要なので注意してください。
開業届を提出する5つのメリット
開業届の提出は必ずしも必要ではありませんが、提出することにより5つのメリットが得られます。
それぞれのメリットについて、以下で詳しく見ていきましょう。
- 屋号入り銀行口座の開設
- 損益通算
- 青色申告特別控除
- 青色事業専従者給与
- 貸倒引当金
屋号入り銀行口座の開設
開業届を提出すると屋号を名義とした銀行口座を開設できるため、プライベート用と事業用に銀行口座を分けることができます。
銀行口座を分けることで確定申告が楽になるだけでなく、クライアントからの信頼も得やすいでしょう。
三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、ゆうちょ銀行などのメガバンクで開設すると、事業の信頼度が高まるためおすすめです。
ただし、メガバンクによっては銀行口座を開設することが難しくなっているため、予め事業の概要が客観的に分かる資料を用意したり、ホームページがあると口座を開設するにあたってよいでしょう。
損益通算(そんえきつうさん)
損益通算とは赤字の損失分を総所得金額から控除できる制度で、確定申告により最長3年間の損失が繰り越し可能です。
万が一対象の所得に赤字があった場合、損益通算制度を利用することで所得税を節税することができます。
ただし、すべての所得に損益通算が適用されるわけではなく、対象となる所得は不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得です。
青色申告特別控除
確定申告で青色申告を行う場合は、最大65万円または55万円の特別控除を受けられる青色申告特別控除を利用可能です。
平成30年度税制改正により、青色申告特別控除が65万円から55万円に変更されましたが、「e-Tax」による電子申告または電子帳簿保存を行うと引き続き65万円の控除を受けられます。
最大65万円または55万円の特別控除が適用できるのは複式簿記による帳簿で、簡易簿記による帳簿の場合は最大10万円の特別控除となるため注意してください。
青色事業専従者給与
青色事業専従者給与は青色申告を行う際に受けられる制度で、家族に報酬を支払って事業を手伝ってもらう場合、給与を必要経費として算入できる制度です。
青色事業専従者給与を活用する一番のメリットは、給与を必要経費とすることで節税ができる点。
ただし、青色事業専従者として認められるには以下の条件に該当する必要があるため、あらかじめ確認しておきましょう。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他親族であること
- その年の12月31日時点で15歳以上であること
- その年を通じて6月を超える期間、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること
貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)
貸倒引当金とは、何らかの理由により取引先から代金を受け取れない場合の引当金を指し、将来起こりうる貸し倒れに備えてお金を手元に置いておくことができます。
貸倒引当金の繰り入れ方法は主に2種類あり、総額を入れ替える「洗替法」、または差額を足し引きする「差額補充法」で貸倒引当金を繰り入れます。
貸倒引当金は青色申告でも白色申告でも利用できますが、適用される範囲が異なるため事前にチェックしておくことをおすすめします。
開業届を提出する3つのデメリット
開業届を提出することによりさまざまなメリットを得られますが、同時にデメリットも発生します。
- 失業手当を受けられない
- 青色申告は手間がかかる
- 扶養に入れなくなる
失業手当を受けられない
開業届を提出して継続的な収入を得る場合は、会社を辞めても失業手当を受給することができないため注意してください。
また、売り上げが低いからといって失業手当を受けることも不可能なので、失業手当を受給したいという人は開業届を提出しないことをおすすめします。
青色申告は手間がかかる
青色申告は青色申告特別控除、青色事業専従者給与などの制度を受けられるので、節税面では大きなメリットがあります。
しかし、複式簿記による厳密な記帳が必要となるためハードルが高く、経理に手間がかかる点は否めません。
扶養に入れなくなる
扶養の範囲内であれば開業届を提出していても扶養に入ることは可能ですが、法人として企業にした場合は社会保険に加入しなくてはならないため扶養に入れません。
扶養から外れてしまうと扶養控除が適用されないので、税金が上がるというデメリットがあります。
開業届の書き方は?提出の手順、方法
まずは開業届を入手しよう
開業届を入手するには、主に以下の3つの方法があります。
- 税務署や市区役所・町役場
- インターネット(国税庁)からのダウンロード
- 開業届作成ツール「freee」を利用
開業届を受け取る一番オーソドックスな方法は、税務署や市区役所・町役場の窓口で入手する方法です。
分からないことがあった場合にすぐに質問できるため、はじめての開業届提出で不安を抱えている人は、税務署や市区役所・町役場へ直接出向くことをおすすめします。
また、国税庁の公式サイトより開業届のPDFをダウンロードすることもできるため、時間がない人はインターネットを利用しましょう。
誰でも無料で開業書類を作成できるサービス「freee」を利用すれば、開業届以外の必要書類もまとめて作成可能です。
記入が必須な17つの項目
税務署名(提出先) | 開業届を提出する税務署で、「納税地」で記入した場所を管轄する税務署名 |
提出日 | 開業届を提出する日で開業・廃業等日に記入する開業日から1ヶ月以内 |
納税地 | 原則としては住所地を記入 |
上記以外の住所地・事業所等 | 店舗や事業所を持っている場合のみ記入 |
氏名・生年月日 | 名前と生年月日を記入 |
個人番号 | マイナンバーを記入 |
職業 | 客観的に分かる職業の名称を記入 |
屋号 | 事業の名称や店舗の名前を記入 |
届出の区分 | 「開業」と記入 |
所得の種類 | 不動産や山林所得でない場合は「事業(農業)所得」を選択 |
開業・廃業等日 |
開業届の提出日から1ヶ月以内 |
開業・廃業に伴う届出書の提出の有無 | 「青色申告承認申請書」又は「青色申告の取りやめ届出書」
「課税事業者選択届出書」又は「事業廃止届出書」 |
事業の概要 | 収益を得ている事業の内容を具体的に記入 |
給与等の支払いの状況 | 家族に給料を出して手伝ってもらっている場合や、従業員を採用する場合は記入 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無 | 給与を支払う場合は「源泉徴収」が必要 |
給与支払を開始する年月日 | 給与支払を開始する年月日が未定の場合は空欄でも可 |
関与税理士 | 開業届を税理士が作成した際に署名・押印する欄 |
開業届を提出する
上記の必須項目が記入できたら、税務署へ開業届を提出しましょう。開業届の提出方法は以下の3つです。
- 税務署の窓口に持参
- 税務署宛に郵送
- 国税庁のオンラインサービス「e-Tax」を利用
税務署が家や事務所から近い場合は、窓口に直接持参することをおすすめします。
郵送する場合は開業届の提出用・控え用の2枚を作成し、返送先を記入した返信用封筒に切手を貼付して郵送してください。
また、マイナンバーカードやICカードリーダライタを所持している人は、国税庁のオンラインサービス「e-Tax」からも提出可能です。
開業届を出すと会社にバレる?
副業を禁止している会社に勤めている人は、開業届を提出することによって会社に副業がバレてしまうのでは…と不安に感じてしまいますよね。
結論から言うと、「開業届を提出したら会社に副業がバレた」ということはほぼあり得ないでしょう。
開業届を提出する税務署から勤め先の会社へ通知が行くことはなく、基本的には開業届を提出したからといって副業がバレる心配はありません。
ただし、会社では住民税の天引きがされるため、極端に住民税が増減すると副業がバレる可能性があります。
住民税の納付方法は「普通徴収」を選択し、自分で納付することで会社に副業がバレるリスクを抑えられます。
副業の税金はいくら?おすすめの税額シミュレーター
freee
「freee」の「副業の税額診断」サービスを活用すれば、最短1分で所得税や社会保険料を算出してくれます!
freeeとは個人事業の開業手続きを簡単に作成できるサービスで、はじめての書類作成でもガイド付きなので安心です。
開業届だけでなく青色申告承認申請書などの各種書類にも対応しており、登録から書類作成、提出までを完全無料で利用できます。
CODEAL
「CODEAL」が提供する「副業確定申告シミュレーター」は、会社員としての収入や副業としての収入を入力することで、より詳しい算出ができるサービスです。
さらに、扶養中の子供の人数や同居または別居している老人(親族)の人数も入力でき、自動で本格的な計算をしてくれます。
また、青色申告や雑所得のケースも計算できるので、確定申告を行う上である程度の目安を把握できるでしょう。
まとめ
今回は開業届を提出すると会社にバレるのか、副業でも開業届は必要か、開業届を提出するメリット・デメリット、書き方や提出方法について説明しました。
開業届とは正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、個人で事業を始める際に税務署へ提出しなくてはなりません。
開業届を提出は必須ではありませんが、青色申告を行う際は開業届と青色申告承認申請書の提出が必要です。
また、開業届によって副業がバレるリスクは低い一方、極端に住民税が増減すると副業がバレる可能性があるため、住民税は普通徴収で納付しましょう。